出来ることなら、もう一度











「食べないの?」

午後の手習いが終わって、執務までの空いた時間でおやつ休憩を取っていたに、そう問いかけたのは加州清光だった。
今日は厨の手伝いをしている堀川国広に代わって、堀川が用意した甘味を加州が離れまで届けていた。そのまま審神者の執務室に留まってや他の刀剣男士と一緒におやつを食べていたのだが、加州はの様子がいつもと違うような気がして、近くまで近づいて行って声をかけた。
今日の甘味はの好きな、あんこをふんだんに使った甘味で、喜々として食べるだろうと思っていたのだけれど、はひと口食べた所で、庭の方を見てぼうっとしたまま、先を食べる様子もない。

「……おなか、空いてない」

は少し考えたように首を傾げて、加州の問に少し気だるげにそう答えた。
変なことを言うものだ、と加州は訝った。
甘味が好きなは、いつもならお腹が空いていなくてもこのくらいの量であればぺろりと食べてしまうのに。特に昼餉の量が多かったということも無いはずだ。
増々いつもの彼とは様子が違うように思われて、加州はの横まで机を回ってきて、その顔をじっと見た。

「……主、少し触るよ」

そう断りを入れてから、加州はの甘味を持った方の手を少し触った。途端にその顔が曇る。

「主、もしかして」

そのまま今度は額に触れる。やっぱり、と加州は小さく呟いた。
はされるがままになっている。

「熱があるんじゃない?」
「…………さあ」

興味なし、とでもいったふうには首を傾げた。まるで他人事だ。

「薬研、薬研!」

けれど加州がそれで納得するはずもない。
加州が声を上げて薬研藤四郎を呼ぶと、周りに居た刀剣男士も何事かあったことに気がついたのか、加州との方に顔を向けた。

「どうした、加州」

最近は一期一振が居なくても離れに居る薬研は、加州の声に応えて、縁側での談笑を切り上げて心持ち早足で二人の元へと歩いてきた。

「主、熱、あるんじゃないかな」
「大将、熱っぽいのか?」
「……別に。大したことないと思う」
「なるほど?どれ、ちょっと見せてもらってから判断するかね」

薬研は軽い調子でそう言って、加州と同じように腕や額を触ってから、脈を取った。
それからやはり加州と同じように少し眉をひそめて、今度は幾分真面目な様子で、道具取ってくる、と言いおいて足早に離れを出ていった。
それを加州は見送ってから、再びの方に顔を向けた。加州の顔は心配そうに眉尻が下がっている。
触れた額はとても熱かった。これは生半可な熱じゃないはずだ。本人は「へいき」と言うが、その割に好物の甘味を一口食べて止めてくらいには、体調が良くはないはずなのだ。
それなのに、年少の審神者は一言もそのことを自分から言わない。
休憩のあとはいつものように執務の予定で、加州がここで気が付かなければ、普通に執務が始まっていただろうし、きっとはそれでも何も言わなかったに違いない。

「どうして言わないの。体、きついんじゃないの」

それなのに、は全くそれを気にかける様子がない。

「……言って、どうするの」

いつにも増して色のない表情が、しばし考えた後に加州を見上げた。その顔は、何をおおげさな、とでも言わんばかりで。

「どうするの、って。仕事を調整したり、休んだり出来るでしょ」
「……なんで仕事、休むの」
「ーーーえ?」
「僕、起き上がれるし、歩ける。……仕事、出来るよ」

その言葉に、加州は思わず口をつぐんだ。
彼の“仕事が出来るかどうか”の基準は、「起き上がって歩けるか」らしかった。体調が多少悪くたって仕事するのが普通でしょ、と言わんばかりの態度に、加州はどう言えばいいのかと逡巡した。

「でも、つらいでしょ」
「……これくらいで仕事、休んだり、しない」

それは、今までだったらきっとそうした、ということだろう。
貧民街では、日銭を稼いでその日暮らしをしていたと聞く。その日得られる収入如何で、その日何を食べるのかが決まるのだ。それは自分だけではなく、病に伏せった母や幼いきょうだい達も含まれる。
収入がなければ、当然、食べるものなど手に入らない。家族がみな、ひもじい思いをする。
だから、余程のことがなければ、仕事はするものだったのだろう。それこそ、起き上がれないくらいに体調を崩したりでもしなければ、仕事は休むものではなかったに違いない。
それがの常識なのかもしれない。いや、常識だった、と言うべきだろう。
それは過去の話で、ここではその必要はないのに。
それをどう説明するか加州が考えあぐねているところに薬研が戻ってきて、薬研がひと通りの診察を行った。
熱は38度7分あった。
流石にその熱の高さに、すぐに回りの刀剣男士達は寝所の準備などを始めたり、今日の執務の調整に入ったりと、離れは少し慌ただしくなった。

「……38度7分って、高いの?」

だけは、どこか他人事のように呑気に薬研に尋ねている。薬研はもはや苦笑いを浮かべている。
しかしは布団に押し込まれると、非常に不本意だ、とでも言いたそうな顔で、別に大したことないけど、とぼそぼそと言って小さな抵抗を見せた。

「今日の執務は取り止めましょう」

所用で出ていた一期一振は、執務室に戻ってくるなりそう言った。

「……ほんとうに、大したこと、ないんだけどな」

一期一振が来ても、はまだそんな事を言う。

「あるよ。そんなんじゃまともに仕事なんて出来ないでしょ」

布団を挟んで一期一振とは反対側に座った加州が、少し呆れたように口を開く。

「………体がだるいからって仕事休んだことなんて、ないよ」
「ここは貧民街じゃないんだよ。無理してまで仕事しなくていーの」
「……むり、してない」

別に仕事出来るけど、と看病する刀剣男士に布団の中からそうこぼしていたものの、次第に熱が上がるにつれて、は苦しげに息をするだけで、口を開く余力も無くなってきたようだった。

「主、……ねぇ、主?」
「……ん………、……」

夕餉時、夕餉の盆を持った加州が離れを訪った際に声をかけてみたものの、は熱に魘されて薄く開いた目を少し右往左往させるものの、荒い息をするばかりで返事らしい返事も出来ない状態になっていた。
結局、加州の持ってきた夕餉をが食べることはなかった。
の周りには、薬研に加え、主の容態はどうかと尋ねたり、身の回りの世話を買って出たりと、何振りかの刀剣男士が入れ替わりにやってきていたが、容態について答える薬研の表情はあまりよくない。
本人は今朝までけろりとしていたように見えたけれども、思ったよりもだいぶ深刻なようだった。

「か、……かしゅ………」

は、は、と短く熱い息を吐くが、うっすらと開けた目で加州を探して顔を弱々しく左右に動かしていた。
横で作業をしていた加州は再びぱっとの横になる布団に近づくと、上から遠慮がちに覗き込んだ。頬が上気して、汗で前髪が額に張り付いたが、ぼんやりと加州を眺める。

「俺はここに居るよ、主。どうしたの」
「………………、………ひ……、の……」
「、なに?」

億劫そうにしながらもなんとか口を開こうとするに、加州も心配な顔つきでを覗き込む。

「ひる、の………おやつ……っ、まだ、食べる、から……取っ、て……おい て………」

苦しげにしながらもなんとか加州の名を呼ぶからどんなおおごとが口から飛び出るのかと思えば、言われたのはそんな内容で。思わず加州も薬研も、まなじりを下げて苦笑した。

「もう、主ったら。そんなに食べたいなら、また新しいの作ってもらうから。今は甘味の心配より、自分の心配してよ」
「…………んん…」

分かったのだか分かっていないのだか、分からないような風情ではゆるく頷いた。
おやつのことを気にかけるくらいだから、存外大丈夫かもしれないな、なんて薬研と加州は言って笑っていたのだが、の熱は上がる一方だった。
ついには魘されて前後不覚でなにかうわ言をつぶやく段になって、薬研は解熱剤を点滴に混ぜることにした。

「おち……る……、お……おち……」

何か幻覚のようなものでも見ているのか、はそう言って魘されていた。布団から手を出しては、何かに掴まろうとするかのように、何かを探すかのように、熱い体温を持った手が弱々しく宙をかいた。
加州に代わって横に座っていた和泉守兼定が、その度にの手を掴んで大丈夫だ、と言いきかす。しばらくしてから布団に手を戻してやっても、同じことの繰り返しだった。
しばらくすると腕を上げる力もなくなったのか、時折口がはくはくと動くだけで、かすれた声も出なくなっていた。

「薬研……解熱剤、効いてないのか」
「もう効いてもいい頃合いなんだがな…」

深夜になっても一向に回復の兆しが見えないことに、控えている一期一振や和泉守、それに周りの刀剣男士達もさすがに不安に眉をしかめるようになった。特に当番を決めているわけではなかったが、近侍の一期一振に加え、いまだ何振りかの刀剣男士が審神者の執務室やその隣の部屋に控えていて、手伝いなどを買って出ていた。
薬研も、点滴の様子を見たり、脈を取ったりと側を離れずについていたが、処置の経過が芳しくないことに口数が減り、

「もう少し様子を見て快方に向かわないようなら、人間の医者に見せよう」

薬研がついにそう言った頃、ぱたぱたと離れに前田藤四郎が駆け込んできた。

「いち兄!この本丸の担当の方が、急ぎ主君に取り次いで欲しいといらしています」
「担当殿が?主殿の体調については連絡していたはずだけれど」

既に審神者の不調を伝えている上に、この深夜に、一体何事か、と一期一振は訝った。その一期一振の訝しげな様子に、もっともだ、というふうに前田が頷く。

「はい、それは僕からもお伝えしたのですが、なにぶん急を要することだそうで」
「わかった。私が言って話を聞いて来よう。薬研、ここは頼めるかい」
「おう、任せとけ」

人間である担当官に伝染るといけないからと言って、担当官には審神者が休んでいる部屋を訪れるのは遠慮してもらった。担当官は別室で用件だけを一期一振に伝えると、連絡はなるべく頻繁に取り合うことは申し合わせた上で、慌てた様子でまた現代に帰って行った。
一期一振はしばらく離れに帰ってこなかったが、再び戻ってきた時には、口をつぐんでその顔に深刻そうな色を乗せていた。離れに戻ってすぐにの休む部屋には入らずに、戸口での周りに待機している薬研以外の刀剣男士、鶴丸国永、小夜左文字、和泉守兼定を廊下に呼んで、声を潜めた。
何事だ、という色を隠そうともしない3振りに向かって、一期一振は少し沈黙した後、重たそうに口を開いた。

「ーーー主殿の母君が、危篤とのことです」
「……なんだって」

呼ばれた刀剣男士達が息を呑む音が、かすかに静寂に落ちる。

「それは本当か」

たまらず、鶴丸が聞き返した。

「はい、そのようです。先程担当殿が伝えに来たのは、そのことでした」
「よりにもよって、こんな時にかよ」

和泉守が顔をしかめて、吐き捨てるように言った。

「…そうですね。審神者殿が伏せっていることは承知だけれども、一刻も早く伝えた方がよいだろうと思って、と大層慌てたご様子でした」
「………」
「………」
「……しかし、なぁ」

鶴丸がそれだけ言って、また重い沈黙が落ちる。
それぞれ考えていることは同じだろう。しかし口にするのは憚られて、自然とその先が途絶える。
先を継いだのは、やはりというべきか、一期一振だった。

「今は、主殿には知らせない方がよいでしょう」

だからに聞こえないように、わざわざ廊下にまで呼んで伝えた。
誰ともなく唸るような声がするが、和泉守がそれでも敢えて口を開く。

「確かに、今知らせたらあの状態でも飛んで行きかねないけどよ。けど、もし万が一のことがあったら…」

和泉守は先を継げず、腕を組んだまま沈黙した。
に伝えるのは得策ではないだろう。それこそ、熱や自分の体調なんてお構いなしに母のいる病院に行こうとすることは想像に難くない。それはみな同意見だ。
けれど。
これでもし万が一、母親が身罷るようなことにでもなったら。
それを、あとからが知ったとしたら。

ーーー彼は一体、どう思うだろうか

重い沈黙が刀剣達の間に影を落とす。

「……とりあえず、人間の医者を早急に手配してもらうようには依頼しています。その診断次第ですが、主殿も政府の病院に移動するかもしれません。各々、そのつもりで」

各自了承の意を唱えると、和泉守は母屋へと伝えるために離れを出ていった。残りは再びの休む部屋へと戻る。
薬研には一期一振が紙片に用件を書いて手渡した。薬研は騒がず、紙片を読むと少し沈黙し、それからそれを白衣のポケットしまうと、

「そうか」

と、それだけを言った。
それから少しして人間の医者が来て、やはりを明日の早朝に政府の病院へ移すことが決まった。
嫌なことは重なるものだ。
なにも、が高熱を出しているときに、こんなことにならなくたって。
誰しもがそう思って、けれど誰も口には出さなかった。
刀剣男士達は、みな普段どおりに手早く、それでも口数少なに、移動や入院の準備を進めていった。













気がついたら、森のような所に立っていた。いや、山かもしれない。
妙に静かだ。
鳥の鳴き声や、梢のさえずる音、そういった、自然の中にいれば当然のように聞こえるはずの音が、まるでしなかった。
舗装もされていない小さな小さな道の上に立っている。その道を覆うように、木々が押し寄せている。小道から空を見上げれば、薄ぼんやりとけぶった薄い青色の空が、もうしわけ程度に見えていた。

「…………?」

さて、ここはどこだろうか。
どうやって来たのか、なぜここにいるのか、はそのどれにも答えを持たず、ただ何度かまたたいて、その景色を眺めるしかなかった。
後ろを振り向けば、同じような道が続いている。
前も見ても、やはり同じような道。
進む必要も、留まる意味もなく、ただそこに立っていた。
裸足だ。足には何も履いていない。
いつも布団に入る時に着ている浴衣1枚で、けれど不思議と暑くも寒くもなかった。
やがて、なんとなく、向いている方に足を踏み出して、歩き出した。なぜか、砂利を踏む足は痛くない。
どのくらい歩いたか。
しばらくすると、道を覆っていた木々が途絶え、広い河原に出た。
丸い大小の石がたくさん敷き詰められた幅のある河原だ。河原の向こうの方へと視線をやると、川が見えた。そこそこ幅はあるように見えるが、あまり深くはなさそうだ。
その川に入るか、入らないかの所に、白い着物を見つけた。女の人だ。黒い長い髪を後ろで一つに結んだ女が、立っていた。
こちらには背を向けていて、覚束ない足取りで川へと向かって歩いている。
それを見た瞬間に、女の顔も見えないのに、は言いようもない悪寒を覚えた。冷水を浴びせられたように、体の芯から震えが吹き出してくる。
とっさに走り出した。

「ーーーっ、待って!!」

声が河原に大きく響いた。
聞こえなかったはずはないだろうが、しかし女は何の反応もない。足を止めることもなく、川へと向かっていく。
河原の小石を弾いて女の元へと走る。なのにどうしてか、中々女の元にたどり着けない。今までにないくらい全速力で走っているのに、木々が遠のくことはなく、川が近づいてくることもない。

「まだ、来ちゃだめだよ」

そうしている内に、川の方から声が聞こえた。
大きな声でもなかったはずなのに、なぜか息を切らして走る審神者の少年の耳にはっきりとそれは届いた。
いつの間にか、女と川の間に、男が一人、立っていた。青年だ。彼はこちらを向いているけど、顔はなぜかよく見えない。そうして女をそっと、けれど抗えない力で突き飛ばした。
女がふらりと体制を崩す。
けれど、女が河原へと身を沈める前に、がその細い体を受け止めていた。
あんなに走っても全く前進しなかったのに、いつの間にか、河原の石と女の間に身を滑り込ませ、その細い体を受け止めていた。いや、のいる場所はやはり、変わっていない。木々はすぐそこにあって、川は相変わらず遠い。
移動したのは、女の方だった。
女を受け止めて、は心の底から安堵した。

ああ、間に合った(、、、、、)。

は女を一瞬見て無事なのを確認すると、再び川へと視線を向けた。
青年が霞んで消えようとしていた。

「ーーーーーーー!!」

叫んだ。
また、もう一度(、、、、)、話がしたくて。
笑った顔が見えたような気が、した。













いざを人間の病院へ運ぼうという段になって、なぜか急に体調が回復の兆しを見せているのを、いち早く気がついたのは薬研だった。
薬研の言を受けて、同伴していた人間の医者が再度を診ると、不思議なことにのバイタルは急激に快方に向かい始めていた。この調子なら入院は必要ない、との診断は、それからすぐに下された。
返って移動させるほうが体に負担がかかるだろう、と、今しばらく城の離れで静養するように言われてから、いくばくか。
朝陽が昇ってからすぐの頃だった。
みなが見守るなかで、は静かに目を覚ました。

「…主殿。目が覚めましたか」

側には、薬研藤四郎、一期一振の他、よく執務室に出入りする刀剣男士がいまだ控えていた。

「……うん」

薬研が再度ひと通り診察すると、夜中までの全く解熱剤が効かなかった状態が嘘のように、今は脈もだいぶ落ち着いて、熱も下がる傾向にあるようだった。
とりあえず峠を超えたようだと刀剣男士達が安堵の息をつく。
一期一振が薬研に目配せすると、薬研は静かに頷いた。話しても大丈夫、そう薬研も判断したのだ。

「主殿。目が覚めて早々に申し訳ありません。実はお伝えせねばならぬことがあるのです」

一期一振がそう言うと、は天井を眺めていた目を何度かこすって、まだ汗が残る顔を一期一振に向けた。
熱がまだ下がりきっていない影響か、気怠げではあるが、しかし視線はしっかりと一期一振を捉えていた。

「母さんは、もう大丈夫」
「ーーーえ?」
「兄貴が……………、………。いや……なんでも、ない」

それだけ言うと、口を噤んで目を閉じて、大きく息をついた。

「加州、……のど、かわいた」

しばらくして、いつもの調子で口を開いた。

「はいはい、ちょっと待ってね」

加州が準備している間に、今度はこんのすけが離れに駆け込んでくる。

「い、一期一振様!」

一期一振は廊下に出てこんのすけと何か話していたが、すぐに部屋に入ってくると、先程と同じくのすぐ側に座した。
少し沈黙したのち、考えるような素振りで口を開いた。

「主殿。母君は、快方に向かわれているようです。担当殿から一報があったと、今こんのすけ殿が」
「……ん」
「担当殿は、今しばらくあちらの動静を見守ってから、改めて城へと報告に来てくださるそうです」
「………そう」

特に驚いた様子もなく、は頷いた。

「主。ほら、水。起きられる?」
「……ん」

体を起こしたはまだ少しふらふらとしていたが、加州から渡された水を飲んで一息つくと、寝る、と言って再び横になった。

「どうして分かったんだ、主?」

和泉守が尋ねると、は一瞬和泉守に目線をよこして、けれど、

「……別に」

そう言って、もう話すつもりはない、とでも言わんばかりに、布団を頭までかぶって丸まってしまった。
それを見て、周りの刀剣男士達も苦笑いをこぼしたけれど、けれどそこには少なからず安堵の色が混じっていた。



後日、体調が全快すると、いちはやく母の病院へと見舞ったは、長い間母と話し込んでいたという。
病室から出てきたは目を赤く腫らして、けれどどこか晴れやかな表情をしていた、と、護衛として付き従っていた刀剣男士は後に語った。













2020/11/20