08







時は少し遡る。

「こんのすけ殿、これはどういうことですか」

一期一振の前には、母屋の廊下に倒れて気を失った、この本丸の“審神者”であるはずの少年が横たわっている。廊下に落ちたその手からは、今しがた厚の短刀によって斬れた血が流れ、廊下に血溜まりを作っている。彼の荒い息が、冷たい空気に虚しく溶けていく。
その惨状を見ながら、一期一振はこれ以上無いほど眉間に皺を寄せて、こんのすけに問いかけた。こんのすけは心配そうに審神者の顔を覗き込んで耳を垂れている。

薬研を殺そうとした少年は、けれどその意図は別の所にあるようだと一期一振は考えた。

幼い審神者が初めてここへ来た時から、何かと不穏な発言をしていたのが一期一振には気にかかっていた。薬研に向かって死ね、と言った少年はしかし、最後には「殺して欲しい」と懇願してきた。
刀剣に向かって死ねと言ったその表情はひどい焦燥を浮かべていて、その言葉とは裏腹に、少年の思惑は最初から「殺してもらうこと」にあるのではないかと素直に信じてしまうほどに、少年は切羽詰まっているようだった。
正気の沙汰じゃない、と思った。
以前見たよりも随分とやせ細った少年は、土気色の死人のような顔をして、廊下に倒れて汗をかいた真っ青な顔で、苦しそうに短く浅い呼吸を繰り返している。
この二月余り、審神者に暴言を吐かれたと言う刀剣男士は結構な数に上っていて、本気で離れに押し入って殺してしまおうとする刀剣達を、穏健派がなんとか抑えている状態だった。
少年が来る前はほとんど堕ちている刀剣も居て、その頃なら恐らく既に審神者の少年はこの世には居ないだろう。
しかし、少年にとっては不本意だとしても、二月余りこの本丸に幼い審神者が留まったことで、この本丸の浄化装置は正常な動きを取り戻したようだった。
穢れに汚染された堕ちかけた刀剣達は、次第に正気を取り戻してきていた。審神者を快く思っていない者、今度は折られる前に先手を打って殺してしまえ、と唱える者など様々だったが、多くの刀剣の共通認識として、もう審神者と関わりたくない、というのがあったように思う。
そういう刀剣の大半は、放っておけば審神者はその内諦めて出ていくだろうと踏んで、なるべく関わらないようにしようというのがほとんど暗黙の了解になっていた。
本丸の状態がだいぶ回復していたこともあって、だからこそなんとか穏健派の刀剣で過激派を抑えることが出来たというのもある。
それなのに、少年はそれらを台無しにするような行動を、頻繁に起こしている。
その意図が分からないまでも、しかし、やはり弟を多く持つ一期一振には、弟と同じ年頃の、あるいはもっと幼い背格好をした幼い審神者を、むざむざ斬り刻むのを見過ごすことは出来なかった。

そこへきて、少年のこの発言。

一期一振には、この幼い審神者には何か目的があるように思えてならず、どうしても見過ごせなくなり始めていた。

「申し訳ありません、私にもよく………」

こんのすけも何が起こっているのか分からないようで、一期一振の問に対して、こんのすけは困惑した声を返すことしか出来なかった。こんのすけが何度も審神者の肩を鼻でつついて声をかけるが、しかし審神者から反応はない。
熱を測らなくても、恐らく高い熱があると分かる審神者の少年を見下ろして、一期一振は一瞬躊躇した。
ここで、彼を助けるべきか、

ーーー否か。

けれど、その迷いは一瞬だった。

「彼を離れに運ぶ。薬研、彼を診てあげてくれるかい」
「ああ、もちろんだ」

ここで迷っている場合では、ない。
こんな所を審神者を殺したがっている刀剣にでも見られたら大変だ。一先ず離れへと移動するのが先決だろう。
一期一振は酷い熱のある少年を抱えあげて、その軽さに目を見張った。
軽い。
普通の人間では考えられないくらいに、軽かった。当然だ、それはこの骸骨のように頬骨が浮かび目が落ち窪んだ少年の顔を見れば、さもありなんといった所だ。
酷い。これが、自分達のして来たことの結果なのか。
知らず、一期一振は奥歯を噛み締めた。

「いち兄!俺は反対だ」

一歩進み出た一期一振の前に立ちはだかったのは、厚藤四郎だった。両手を広げて、とうせんぼをするように行く手を阻む。

「厚」
「いち兄、分かってんのか。それは審神者なんだぞ」
「ああ、分かっているとも」
「じゃあ!そいつは捨て置いた方が良い。ここで助けてそいつが力を取り戻したら、今度は俺たちを折りに来るぜ」
「……っ」

一期一振は、数瞬の躊躇いを見せた。厚の言う通りかもしれないとも思ったからだ。
前任の審神者は、まるで血の通った人間とは思えないほど残忍で、無慈悲だった。一期一振こそ無事だったが、短刀の弟達は1度ならず何度も何度も折られてはまた顕現した、そんな弟達がほとんどだ。
厚藤四郎はそれをよく、知っている。
また、同じ苦痛を味わうかもしれない。それが、再び一期一振を躊躇わせた。

「いち兄!薬研は、誰に折られたと思ってんだよ…!?何度も、何度も……!!」

厚の絞り出すような声に、一期一振は思い出したくない過去を遮るように目を瞑った。
分かっている。
薬研を、前の(、、)薬研達を折ったのは、他ならぬ審神者だ。
けれど。
目を開いて、厚の瞳を見据えた。

「“前任の”、審神者だよ。厚」
「……!」

それに厚は目を見開いて、それからぐっと何かをこらえるように目を諌めた。

「そうだぜ、厚。いち兄も、何を躊躇ってる。死にかけの餓鬼一人、見捨てるようじゃあ粟田口の名が廃れるぜ」

一期一振に加勢するように、審神者の様子を気にかけながら薬研が厚に言った。
今ここに居る薬研は、前任が連行される前日に顕現された一振りだ。
それまでの薬研は、もう幾度も厚や一期一振の前で折られている。粟田口兄弟の中でも厚は特にそのことを酷く悔やんでいて、だから薬研の傍に居ることが多かった。
薬研もそれを分かっていて、厚には何も言わない。
けれど、幸か不幸か、薬研はほとんど前任を知らないためか、人間に対して負の感情がほとんど無かった。今までは、兄弟や、何より一期一振に“審神者とはなるべく関わるな”と言い含められていたので、近づくことをしなかった。兄弟の悲しむ顔は、やはり見たくない。
けれど一期一振が自らそれを反故にすると言うのなら、もう薬研に否やはない。一期一振の要請が無くても、目の前の人間が瀕死の状態であれば、見捨てるような真似はそもそも性に合わないのだ。
けれど、やはり、それを厚は酷く警戒していた。

「厚。心配ならお前も一緒に来い。それに、俺っちが契約も結んでないただの子供に引けを取るなんて、聞き捨てならねぇな」

薬研は一期一振の横から厚に言い募った。少し茶目っ気を交えて言えば、厚は口を閉じて、小さく頷いた。

「………っ、……。……少しでも不審な動きがあれば、それを殺す」
「ああ、それで構わねぇよ。いち兄、行こう」

薬研に促されるように、三振は審神者とこんのすけと共に離れへと足早に向かった。
こんのすけに案内されるままに入った部屋は、前任の審神者が使っていた部屋だった。屋敷守の精霊達に真っ先に整えさせたとこんのすけが言う通り、部屋は綺麗に片付いていた。いや、綺麗なその部屋には何も無く、むしろあまりにも生活感の欠片もない。その事を問い質すと、こんのすけは耳を垂れて「審神者様はここをお使いになるのを嫌がりまして……」と言う。では一体今までどこで休んでいたんだと呟いた薬研の声に、物置部屋です、とこんのすけの今にも泣き出しそうな声が言うのを聞いて、一期一振はまた奥歯を噛み締めた。
こんのすけが指し示した物置部屋は、狭くて埃っぽい、小さな部屋だった。暖を取るものも何もない。この寒い時期に、ひとり、この小さな部屋で飢えと寒さを凌いでいたというのか。

とにかくまずは暖を取ろうと布団を探した。改装した時に新しく買い揃えた布団も、綺麗なまま押入れに入っていた。それを出してきて部屋の中央に敷き、審神者を寝かせる。それから看病するのに必要な道具を揃えたり、明かりや水桶やタオルを持ってきたりとしている最中、不審げに部屋を覗いてくる刀剣に気が付き、一瞬、一期一振は刀の柄に手を掛けた。
反射的に審神者や薬研達を背に庇うように前に出る。
しかし、襖から不審げに顔を覗かせたのは、鶴丸国永だった。

「鶴丸殿、」

鶴丸は襖から少し中を覗いてから目を何度か瞬いて、それから自身も柄に置いていた手を元の位置へと戻した。どうやら離れがいつもより騒がしいので、審神者に何かあったのではと思って様子を見に来たらしい。
激変した離れの様子を見て鶴丸国永は眼を瞬いていたが、布団に寝かされて治療されている審神者を見て、鶴丸は少し部屋に入ってから周囲を確認した後、遠慮がちに一期一振に問いかけた。

「一期……これは」
「……、審神者が酷い熱を出しているので助けて欲しいと、こんのすけ殿から話がありまして……」
「………君は……、……彼を、助けるのか」
「………とりあえずは、ですが………」
「……そうか」

そう言って鶴丸は思案気に小さく頷いた。
鶴丸は本来は気性の明るい人懐こい性格だが、この本丸での長い生活の中で心を閉ざしたように一期一振には見えた。それこそ、彼が良く言っている「心が死んだ」状態であるように見える。
あまり物を話さず、感情の機微を表に出さない。
少年との接触があったのかは一期一振は知らないが、しかし今の様子を見るに、幼い審神者に敵意があるわけでは無いようだった。
ここに居てもよいかと鶴丸が問うので、どうぞお好きに、と一期一振が言うと、鶴丸は審神者部屋の入口に近い所で壁に背を預けて座り込んだ。粟田口の、主に一期一振と薬研の二振りが慌ただしく動く様子を、部屋の隅からただ静かに眺めている。

薬研に診察してもらった少年の診断結果は、免疫力の低下による高熱と、極度の栄養失調というものだった。
加えて、体の到る所にある刀傷がほとんど化膿しかけていて、全て包帯とガーゼを外して丁寧に治療し直した。膿んでなかったのが奇跡のようだった。こんのすけが口を酸っぱくして消毒するように言ったということだったので、そのお陰でかろうじて化膿するには至らなかったようだ。
とりあえずこんのすけが政府に要請して取り寄せた点滴を処置し終わって、ついでに身の回りや部屋の片付けも一段落ついた頃、再び厚は耐えきれない、というように口を開いた。

「いち兄。やっぱり俺は反対だ」
「厚」
「薬研、人間なんかに構うと碌なことになりゃしねぇんだ。分かるだろう!?」

急に立ち上がってそう言う厚を、薬研は静かに見上げる。
この本丸で前任の審神者によって行われてきた所業は、薬研にとっても許しがたいものだ。当事者であった厚や一期一振にしてみれば、到底看過出来るものではないだろう。それは薬研にだって痛いほどよく分かる。
だから、今まで一期一振や周りの兄弟が言うように、審神者に干渉せず、極力静かに過ごしていた。
けれど。

「俺っちを気遣ってくれるのは有り難いんだけどよ。俺っちも、刀剣だ。人の思いから生まれた付喪だ。死にかけの人間を目の前に、放っておけねぇよ」
「前の薬研達を折ったのは、その“人間”なんだぜ!?」
「厚、止めないか。少なくともこの審神者は、薬研を殺そうとしていたわけではないように私には見えたよ」
「俺っちも同意見だ。厚、少し落ち着け。こいつを成敗するのは、話を聞いてからでも遅くはねぇだろう?」
「遅いさ……!結果が分かってからじゃいつだって遅い!」
「厚、もうそれくらいに……、…鶴丸殿?」

いつの間にか鶴丸が一期一振に歩み寄って来たことで、三振りは一旦口を噤んだ。
見れば、鶴丸がぐしゃぐしゃになった白い紙切れを持っている。どうやらそれはだいぶ破れてはいるが、手紙のようだった。それを鶴丸が無言で差し出している。

「これは……?」
「これは先程、こんのすけめが審神者様に届けた政府からの手紙でございます」

鶴丸の少し後ろに控えていたこんのすけが、鶴丸の代わりに応えを寄越した。

「手紙を渡そうと離れに来て、そこで審神者様の様子がおかしい事に気付き、慌てて一期一振様を呼びに走ったのですが……放り捨てた手紙の存在を、今の今まで忘れておりました……」

そう言って、こんのすけは力なく耳を垂れている。
とりえあず審神者を看病出来る体制が整い安堵した所で手紙の事を思い出し、廊下を探して見つけたのだとこんのすけは言う。
封筒から出されて廊下に落ちていた便箋をこんのすけも目にし、その内容に驚いた。
そして合点が行った。
どうして審神者はこのような事を起こしたのかと言うことを。
こんのすけが手紙を読み終えると、鶴丸がこんのすけに無言で手を差し出して来たので、それを鶴丸に渡した。内容を確認した鶴丸は、やはり無言で一期一振に手紙を差し出したのだ。鶴丸から受け取った手紙を読んだ一期一振は、目を瞠った。

「これは………」

内容を確認した一期一振は、二の句が継げないという風情で口を閉ざした。
一期一振から手紙を渡された薬研と厚も、内容を確認してから先程の口論が嘘のように、静かになった。
少しの間、沈黙が場を支配した。
ただ、少年の苦しげな息遣いだけが部屋に響く。

「……弟君が亡くなった、とは」

口を開いたのは一期一振だった。
手紙には、訃報が記されていた。
審神者の一番年少の弟が、他界した、と。まだ4歳だった。

「風邪というのは、軽い病だったと記憶していますが……現代では違うのですか」

死因は、風邪をこじらせた肺炎、と書いてある。よくある病だ。

「現代でもそうでございます。風邪で命を落とす者は、現代の進んだ医学ではほとんどおりません」
「では……、なぜ」
「審神者様は、貧民街の出自でいらっしゃいます」
「貧民街……」
「軽い病でも、もしかしたら医者にかかることが出来なかったのかもしれません」


医者にかかって薬を飲めば、命を落とす事は無かっただろう。けれど、それが出来なかったのだ。
その理由は至って単純だ。
なぜなら。

「……それは……金子(きんす)が無いから、ということですか」

その一期一振の問に、こんのすけは静かに頷いた。

「おそらくは……」

以前、誰かが言っていた。
審神者は刀剣に、殺してほしいというようなことを言う。なぜかと問えば、金が欲しいからだ、と言っていたと。
どういう仕組で、審神者が殺されれば金が手に入るのかは分からないが。
狂っている、と大半のものは嘲笑し、取り合わなかった。
けれど。
今の現状を見ると、それはとても笑い事ではない。
薬研を襲った時の少年の様子は、とても尋常ではなかった。熱にうなされていたというのもあるだろうが、それはむしろ、行動を起こすのを抑止出来なかった理由であって、本当の理由ではないように思われた。
時間的に考えて、少年が薬研へと襲いかかったのは、手紙を読んだすぐ後だということになる。

少年はこの手紙を見て何を思ったのだろうか。
審神者がこの本丸へ来てから、既に2ヶ月以上が過ぎている。

「しかし、なぜ、彼が刀剣に殺されることが、金を手に入れることに繋がるのです」

それは、刀剣が疑問に思っていたことだった。
彼は刀剣に殺されたい、と言う。
なぜなら、金が欲しいからだ、と。
なぜ、彼が刀剣に殺されることで、金が手に入るのか。

こんのすけは耳を垂れ下げたまま、口を何度か開閉して、それから弱々しい声音で口を開いた。

「……異常な本丸を引き継ぐ審神者様方には、それをする際に約定が結ばれます」
「約定……、どのような」

こんのすけは、異常な本丸を引き継ぎしたがる審神者はほとんど居ないこと、それをする審神者には、万が一何かあった時の保険として政府からの特別手当てが約束されていることを説明した。
説明を受けた一期一振は、信じられないものを聞いたように、声を強張らせて言った。

「では、彼は、その金を手に入れるために殺してもらおうとしていた、と?」

そんなの、間違っている。
そう言いたいのは山々だ。
けれど、彼には、この幼い審神者には、それ以外に手が無かったのだろう。そうでなければ、このような環境に自ら進んで飛び込んで来る者など、あろうはずもない。だからこその、特別手当てなのだろう。
制度に文句を言いたい気持ちやら、他に手は無かったのかと問い詰めたい気持ちやら、様々な気持ちはあったが、今それをここでこんのすけに問い詰めた所で何にもなるまい。
それよりも、この少年の不可解な挙動の説明が欲しかった。
一期一振に問われたこんのすけは、彼は、とやはり元気の無い声で続けた。

「この、審神者様は……。着任初日に、こんのすけめにお尋ねになりました。約定は確かなのか。ご自分がこの本丸の刀剣に殺されれば、金が家族の元に渡るのか、と。ですので………一期一振様の、おっしゃる通りかと」

彼がこんな状態になるまで耐えて、耐えて、そして刀剣に殺される事を諦めなかった理由。
それは、家族のためだったと。
それをこの小さな審神者が一言も漏らさなかったことや、それを刀剣達が慮ることすら出来なかった事に、後悔の念が渦巻いた。
遠巻きにしていればいずれ音を上げて出て行くだろうと、そう思っていたけれど。
彼には、この小さな審神者には、もっと早くに誰かの助けが必要だった。
もっと早くに誰かが手を差し伸べて、何か別の道を示してやるべきだった。

そうして、一期一振は、気がついた別の事実に戦慄した。

もしも。
もしも、彼が既に刀剣によって命を奪われ、それによって得た金が家族に渡っていれば。


弟は死なずに済んだのではないか。


自然、その考えにたどり着いた一期一振は知らず、ぎり、と奥歯を噛み締めた。
当事者である審神者が真っ先にそう考えただろうことは、容易に想像出来る。

「………。……審神者様には、まだ他にもご兄弟や母君がいらっしゃると聞いております……、ですので……」

かろうじてこんのすけは、それだけを続けた。
だから、彼は。この、審神者は。

「弟君が亡くなって……もう時間が無い、と……思ったのですね。彼は…」

こんのすけは否定も肯定もしなかった。
時間がない。
うかうかしていると、また同じことを繰り返してしまうかもしれない。
そう、思ったのではないか。
だから、なんとかして、自分を殺してもらう方法を考えた。それが、薬研を、刀剣を襲うということだったーーー?
刀剣は、そしてこんのすけも、まだ審神者の多くを知らない。
けれど、それは大きく的を外れた推測では無いように思えた。
真意は確かめなければいけない。
けれど。

「……厚。やはり、私はこの審神者を見殺しには出来ない」

一期一振も弟を多く持つ身だ。
その一人でも欠けることの恐ろしさを、一期一振もよくよく身に染みて分かっている。一期一振は、自然、伸ばした手で隣に居る薬研の頭を撫でながら、審神者を見下ろした。


彼はきっと、家族を守りたかった。
ただ、それだけなのだ。


その気持ちは、一期一振にも痛いほどよく分かるから。









2018/06/22

僕を、殺して 08