07
目が覚めた。
意識があるということは、生きているということか。
その事に
は酷く落胆して、また同時に安堵した。
まだ、生きてる。
まだ、殺してもらえる。
そう思って、次いで意識を失う前の事がふつふつと思い出されさて、さっと血の気が引いて行くのが分かった。
じっとしていられず、がば、と起き上がる。
まだ熱があるのか、頭はふらふらするし、喉がすごく乾いて、ついでに目も霞む。けれど、今はそんなことはどうでも良くて。
「(そうだ、僕、は………)」
あの手紙を、こんのすけから受け取って。
それで、それでーーー
混乱する思考で、起き上がった視界の中に刀剣男士の姿を認めて、
は目を見開いてぱっとそちらをふり向いた。
なぜ眼の前に刀剣男子ーーー空色の髪の人がいるんだ、とか。
なぜ自分が、布団に寝かされていたのか、とか。
なぜ真新しい着物を着せられているんだろう、とか。
ここはどこだろう、とか。
「僕……ここ……、あんた、何で…………」
疑問は色々あって、ありすぎて、津波のように押し寄せて、頭の中でぐるぐると渦を巻いている。
けれど目の前の状況よりも何よりも、こんのすけに渡された手紙の内容が、地面からじわじわと這い上がるように恐怖を運んでくる。布団を握る手が、知らず、かたかたと震え始める。
どうすれば良かったんだろう。
なんで自分が生きているんだろう。
分からない。
分からないけれど。
もう。
もう、颯太は帰って来ない。
早くしないと母さんだって、XXXだって、XXだって、同じようになってしまうかもしれない。
早く、早く。
早く、殺してもらわないと。
僕が、生きているばっかりに。
「どう、してっ………」
もう
には打てる手は無かった。ない頭を捻っても、出来ることはそれなりにやったけれど、彼らは
を殺してはくれなかった。
もう、もう、目の前の刀に縋るくらいしかーーー
「僕が、生きてる……から…………」
意図せずに、声が震えた。
布団から這い出して、空色の髪をした刀剣の胸ぐらを掴んだ。まだ力の入らない手で、それでも力いっぱい握る。知らない内に包帯が巻かれている手からじわりと血が滲むのが分かったが、気にしなかった。
周りに居たらしい人影が立ち上がるのを感じたけれど、空色の髪の刀剣が空いた手で制した。
「殺して……。僕を、殺して、ください……!」
震える声や、頬を濡らすものに、情けなくなる。結局こんなみっともない方法しか残っていないなんて。
けれどもう、これ以外に、方法が見つからなかった。
どうして、どうして、殺してくれないのだろう。
子供1人殺して、それで神々の気が晴れるというなら、安いものじゃないか。
だって、そうだろう。
殺したいんだろう。
世に言うブラック本丸に行った審神者が殺される事件が頻発するのは、そういうことじゃないのか。
そう思っていたのに、僕の一体何が気に食わないんだろう。
「審神者……。私はあなたを殺しません。殺させません。あなたは生きるべきです」
「なんで…………」
は絶句した。
一番聞きたくなかった言葉が、この刀剣の口から飛び出したことが、俄には信じられなかった。
どうして、この神はそんなことを言うのだろうか。
この神は。
この地獄で、厳しい孤独の中で、苦渋を舐め、這いずり回りながら、それでも生きろと……?
「僕は……自分じゃ死ねないんだ」
「死ななくて良いのです」
「駄目なんだ。死なないと、殺してくれないと、意味がないんだ。あんた達に殺してもらうことで、僕には、初めて、価値が生まれるんだ、から………」
そんな審神者を見て、空色の髪の刀剣、一期一振は、
が胸ぐらを掴む手にそっと手を重ねた。
「…………審神者。あなたは、我らが生かします」
こちらを見る黄金の瞳を、呆然と見返す。酷い絶望が
を支配した。
それは、死刑宣告よりなお、悪い。
どうしてこの刀剣がそんなことを言うのか分からなかった。彼が穏健派のようだというのは、ここに来た時から分かってはいた。けれど、
を生かす理由は無いはずだ。
それなのに、なぜ。
「なにが……なにが、目的………?」
「あなたを生かすことです」
「どうして生かす…必要がある?あんた達に、何か、いいことでも……あるの」
「あなたはこの城の主です」
「違う。僕は、そんなんじゃ、ない……」
「あなたを生かすのが、我らの勤めです」
「(……なんだよ、それ……)」
それ以降は、もう何も言えなかった。ぱたり、と力の抜けた手が意識せず落ちる。
酷い気分だった。
頭は痛いし、息切れはするし、眼は霞む。手の震えが止まらない。
それはきっと、体調のせいだからだけではなくて。
「まだ熱が酷い。お休みにならないと、また悪化します」
一期一振がそう言って、気遣うように
を布団に戻るように促す。茫然自失の
が動けないでいると、少々強引に体を抱えて布団に横たえて、掛け布団を掛けることまでした。
それはどう解釈したって、
を気遣う言動のようにしか見えなくて、
は目と耳を塞ぎたくなった。
体が熱い。のに、酷い寒気がする。
は酷い絶望の淵で、けれど頭が言うことを聞かなくて、うまく考えがまとまらない。
は布団に顔ごと埋もれて丸くなった。
とにかく今は、何も考えられそうになかった。
*
少し冷やりとした、心地よい手が髪を梳いてくれている。
懐かしい感覚だった。
兄弟たちと身を寄せ合って眠る時は、それは自分の役割だった。けれど、そう、まだ兄が生きていた頃。いつも外で“仕事”をして帰ってきた兄が、疲れているはずなのにそれを全く見せずに、優しい顔をして自分の頭を撫でてくれていた。
兄を気遣う
に、兄は決まってこう言った。
お前たちの元気な姿を見るだけで、疲れなんて吹っ飛ぶんだ、と。
髪を梳く、程よく冷たい手の心地よさに
は微睡みながら、けれどどうしてもその手の持ち主を知りたくて、重たい瞼をなんとか持ち上げる。
もしかしたら、もしかしたら。
兄が帰ってきてくれたのじゃないか、なんて。
それとも、いつの間にか自分が兄の元へと来ていたのだろうか。
どちらにしたって、もう一度、兄に会えるのかもしれないなんて、柄にもなく思ってしまって。
薄く開いた瞼の向こうに見えたのは、けれど兄とは似ても似つかない、白い手だった。
手には青や紫の痣が所々に見えて、その手を辿って顔まで視線を上げていくと、見慣れない、けれど見たことのある白い羽織に白磁の肌、同じくらい白い髪、それに金色の浮世離れした綺麗な瞳。
いつか井戸端で見た白い刀が、こちらを見下ろしていた。
ゆっくりと、優しげな手付きで
の髪を梳いている。
なんでこいつがここにいるんだろう、と普通ならば思う所だけれど、まだ半分夢の中にある意識は、訝しむこともしなかった。少し落胆していたけれど、でも、次に訪れるのは心地良い、安堵。
「ーーー」
なんとか口を開こうと思ったけれど、驚くほど体が重く、また全く言うことを聞かなかった。
優しい手付きに誘われるように、寄せて返す睡魔に抗えず、
は再び目を閉じた。
「ーーーあるじ………」
眠りに落ちる間際、何か聞こえた気がした。
けれどそれを理解する前に、
の意識は夢に溶けていった。
*
次に目が覚めた時には、熱はだいぶ下がっているようだった。
あれから何日経ったのかは分からないが、体が随分と軽くなっていて、寝起きでぼうっとした頭でしばらく天井を眺めていた。
何度か目を覚ましたような気もするが、気のせいかもしれない。何か夢を見たような、あるいは夢現に何かを見たような、けれどそれも良く思い出せない。
が寝かされていたのは元審神者の部屋だったようで、そういえば以前一度見た時に綺麗になっていたのを思い出す。変な香の匂いもしないごくごく普通の和室からは、新しい部屋の匂いがしたし、ふかふかの布団からもどこか温かい匂いがした。
布団の横には点滴袋を下げる器具が置いてあって、そこから伸びる管が自分に繋がっているのを見て、色んな感情が沸いてくる。
こんなこと、本当は望んでいないのに、とか。
これがあれば、まだ、殺してもらうまで生きていられるだろうか、とか。
それからまた手紙のことを思い出して、深い溜息が漏れた。震えそうになる手を、ぎゅっと握る。ここで自分が取り乱したって、何も変わらないのだ。
何も。
部屋の入口近くの壁際には白い刀が座っていて、
の深い溜息に気がついたのか、白い刀は一旦
の方を見た。同じくこんのすけもその白い刀の横に丸まっていたようで、ぴょんと跳ね起きると
の方へと喜々として駆け寄ってくる。
「審神者様、お目覚めになったのですね」
そう言って声を潤ませる。なんだまだ居たのか、とは言わなかったが、代わりに返事もしなかった。
白い刀が障子を叩くと、程なくして廊下に座っていたらしい人影が2つ、障子を開けて中に入ってくる。
「お、ちびすけ。具合はどうだ」
さも当然のような顔をして刀剣男士が部屋を出入りする。眠る前もそうだったが、こんのすけはいざ知らず、起きてからも白い刀剣は部屋に居るし、刀剣達はまるで勝手知ったる我が家のように部屋に出入りした。
「………」
「顔色は、まあ、だいぶマシになったな」
そう言った刀剣は紫紺の瞳を心なしか嬉しげに細め、白衣を翻して遠慮無しに
へと近づいて来る。彼は、
が殺そうとした刀剣だ。それなのに全く警戒も嫌悪も示さず、無頓着に近づいてくる。
「おい、薬研」
「大丈夫だ、厚」
続いて入ってきた黒い短髪の刀剣は不機嫌そうに白衣の短刀を引き止めたが、彼はそれを軽く諌めて更に
が横になっている布団へと足を進める。
それを見て、思わず、といったように
は上半身を起こして白衣の短刀とは逆の方に距離を取ろうとした。
殺してもらえるならむしろ喜んでこちらから近づいて行くが、普通、というよりも気遣うような事を言われて、思わず警戒をしてしまった。
「審神者様、彼らは敵ではございません。ご安心ください」
狐はそう言うが、それを丸っと信じられるはずもない。いや、むしろ敵でないことの方が問題なのに。
「どれ、ちっと見せてくれや」
白衣の短刀は、
が警戒している事に気がついていないわけはないだろうに。短髪の刀剣だって、警戒心をむき出しにして、彼のすぐ後ろに控えているというのに。
それらを無視して、白衣の短刀は布団の横に陣取って、少し空いた空間を無遠慮に詰めてくる。そして
の点滴の刺さっていない方の手首をさっと掴んだ。それをとっさに払ってしまってから、
はこちらを見てくる短刀を見返す。
怪我のほとんど見当たらない四肢、黒い髪、白い肌、見慣れない紫の眼。
それは、ここで見てきた怒りや、呆れや、疲弊や、そのどれとも違っていて、ただ単純に
の体の具合を心配しているようにしか見えなくて、
は困惑した。穏健派、とも、違うように見える。
「……触るな」
「脈を取るだけだ。何もしねぇよ」
そう言って、全く無警戒に、また
の腕を取った。
がまた嫌がるように腕を引いても、今度はしっかりと掴まれた手首は開放されることはなかった。びくともしない刀剣の腕に、
は少ししてから抵抗をするのを止めた。
なぜ、当然のように、自分は看病されているのか。
先日起こった事を忘れたわけではないだろうに。疑問だけが残る。
しばし静かに脈を取って、それから白衣の短刀は、うん、と頷いた。
「あともう少しってトコだな。体調はどうだ?」
「………、…………それなりに」
そう答えると、何が楽しいのか白衣の短刀はくつくつと笑った。
裏があったり、何か企んでいたり、嫌味だったり、そんな笑みじゃなくて、本当にただ楽しい、そんな笑いに見える。
増々わけが分からない。
「そりゃあ重畳。ま、布団でじっとしてんのは退屈かもしれねぇが、もう少しのんびり布団にでもくるまっててくれや」
そう言うと、白衣の短刀は点滴袋を確認したり、布団の周りにある器具などを少し整えてから、短髪の刀剣と共に部屋を出ていった。
白衣の短刀が出て行って少ししてから、空色の髪の刀剣が姿を現した。こちらも、勝手知ったるという感じで部屋へと入ってくる。どうやら白衣の短刀が呼びに行ったのだろう、空色の髪の刀剣の後ろから、先程出て行った二人も入ってきて、けれど今度は部屋の入口付近で控えるように座った。
空色の髪の刀剣は、
の顔を見るなり開口一番、
「具合は、だいぶよろしいようですな」
「……」
この刀剣も、
の体調を気遣うような言葉を当然のように吐いて、無遠慮に布団際まで来て腰を下ろした。もう、わけが分からなかった。
「さあ、まだ横になっていなくては」
そう言われて、どうすべきか
は迷った。自分以外がこれだけ居る部屋で、無防備に横になっていいものか。けれど確かにまだ頭はふらふらするし、正直体を起こしているだけでも辛い。渋々、
は起こしていた上半身を横にした。
すると、空色の髪の刀剣が
が被っている布団を綺麗に整える。
どう見ても、これは、“看病されている”。
「……なあ、あんた」
は布団の中から、傍に控える刀剣を見上げる。空色の髪の刀剣は、布団の横に姿勢正しく座している。心配げに見下ろすそれが、酷く落ち着かない。
「一期一振、と申します」
折り目正しく、という表現が似合う仕草で、空色の髪の刀剣は軽く礼をして名乗った。
変な名前。
覚える気もないし、だから名乗られたってどうすればいいのかも分からない。
は逡巡して、けれど無視することにした。元より、一期一振と名乗った刀剣もまともな返答は期待していないだろう。
「………僕を殺す気がないなら、出てってくれないかな。邪魔なんだけど。……あんた達も」
看病してくれた礼よりも先に、出て行け、そう言った言葉に、温厚な人だって普通なら腹を立てるだろう。そのつもりで言った
の言葉は、けれどまともに受け取ってくれた刀剣はいないようで。
「先日申し上げました。貴方を死なせません。まだこの本丸には、あなたを害そうとする者もおります。我らがお守り致します」
「我ら……ね。………分かんない。どうしたの?なんでそんな急に考えを変えたの」
「審神者。貴方は私に殺してくれと言いましたな。それはなぜですか」
「……そのままの意味だけど。殺してほしかった。今も」
「金が欲しいから、ですか」
他の刀剣から聞いたのか、一期一振はそう問い返してきた。
「うん」
「なぜ、金が必要なのです。誰のために?」
「………………」
家族のためだ。決まっている。
けれど、それをここで言うと同情を買うようで、あまり言う気になれなかった。
同情されては困るのだ。そんなものは要らない。欲しいのは、ただ、何も考えずに殺してくれる刀剣だけだ。
「………。……我らは人間の想いから生まれたもの。人間のために尽くすのは、自然な成り行きです」
「でも、今まではそうじゃなかった」
「ええ。これからは、そうなります」
「だから、それが何でかって聞いてるんだけど」
「貴方を救いたい。そう思った。それだけです」
「……僕を救う一番の方法は、僕を殺すことだよ。分からない?」
「分かりませんな。審神者の物差しは、少しばかり私には分かりにくい」
「…………」
随分と面倒な刀剣が来たものだ、と
は溜息を我慢することなく吐き出した。
先日の三つ編みの刀剣といい、穏健派というのはことごとく厄介だ。こと、
が成そうとしていることに関しては、こういう手助けは返って邪魔なだけだ。それが分からないのだろうか。
結局
は、極力関わりを持たないようにしようと決めた。
が寝ても覚めても、部屋には常に最低一振は刀剣が居た。こんのすけは、居たり居なかったりするが、空色の刀剣と行動を共にしていることが多いように見える。
大抵いつも白い刀剣は居て、それに入れ替わり立ち代わり、白衣の短刀や空色の髪の刀剣が出入りしている。空色の髪の刀剣は、よく白衣の短刀と短髪の刀剣がセットでくっついていて、特に短髪の刀剣は審神者のことを酷く警戒していたので、そんなに睨むなら殺してくれればいいのに、と
はいつも思っていた。
が寄るな出て行けと何度言っても、刀剣達は全く歯牙に掛けた様子もなく聞く耳も持とうとしないのだから、どうしようもない。
が勝手にするのだから、自分達だって勝手にしていいだろうと、むしろそんな態度だった。
だと言うのに、空色の髪の刀剣は甲斐甲斐しく
の世話を焼いた。
問いかけられても
は碌に応えを返さないし、どこか死んだ魚のような目をした
に、それでもその刀剣は根気強く話しかけたり、定期的に包帯を替えて傷の手当をするなどした。
どうして刀剣男士達が急にこんな態度を取るようになったのか、
には全く心当たりがなくて困惑した。白衣の短刀を殺そうとしたのだ、辛く当たられることがあったとしても、甲斐甲斐しく世話を焼くようになるなんて到底理解出来るはずもない。
こうしている間にも、時間は刻々と過ぎていく。
早く、早く、どうにかして刀剣達に殺してもらわなければ。
そう思うのに、体がうまく動かなくて、何も考えられなくて、結局
はただ呆然と時間が過ぎるのを見ていることしか出来なかった。
3日程経ったその日も、空色の髪の刀剣が居なくなると、静まり返った部屋には
と白い刀剣だけになった。
熱はやっと下がっていたが、食欲がなく物を食べていない今は、点滴からの栄養だけだからなのか、相変わらず頭がふらふらした。
そう言えばこの3日、あの手紙はどこへ行ったのだろうと、まだ動かない体で布団の中から廊下などに視線をやって探してみたが、放り投げたままだった手紙は見当たらなかった。誰も、こんのすけでさえそのことについて何も言わなかったし、自分からどこにあるかを聞きたいようにも思えなかったので、廊下の隅で埃にまみれているか、雨戸を空けた時に外に飛ばされでもしたと思うことにした。
起き上がれるようになったら、探してみてもいいかもしれない。
「…………あんた、なんでここに居るの」
縁側の障子を開けて、その淵を背もたれにして庭を眺めて座っていた白い刀剣に、気まぐれに問いかけてみる。
しばらく口を開いていなかった
が口を開いたことに、けれどゆっくりと白い刀剣は
の方を振り向いた。
「………」
「見張ってるの」
事件を起こした人間が、再び馬鹿な事をしないように。
「ここの刀って、子供一人斬れないナマクラばっかりなの」
「……………」
白い刀は、金の瞳で
を見据えたまま、けれどその顔には何の表情も浮かんでいない。
「あんたの刀。良く斬れたよな。……それで殺してくれたら、僕も苦しまずに死ねると思うんだ」
「……」
「だから、殺してよ。あんたの刀で」
「…………」
白い刀剣は大きく溜息をついた。また馬鹿な事を言っている、そう言いたげな態度だった。
その態度に
はわずかに苛立つ。彼らのしたいことが分からない。本当に、分からない。
「それで、救ってやってるつもり、なわけ」
「………」
「死なないと、僕の価値、無いんだって……言ってるじゃないか……」
「……………、……」
「あんた達が、ガキ一人殺すの、なんて……朝飯前、だろ」
「……」
「何で、殺してくれないんだ。僕のどこが、気に入らないんだ」
「…………………」
白い刀は、何も言わない。
「…………」
それきり、
は口を閉ざした。
それでも、白い刀は何も言わなかった。
2018/06/06