「おう、久しぶりだな、
!」
「ご無沙汰してます」
長い間見ていなかったと思ったら、夜トが久しぶりに雪音を伴い
の元を訪れた。
なぜかとても嬉しそうに胸を張る夜トに、何かいいことがあったんだな、と
は当たりを付けた。
そういえば、ヤスみも綺麗さっぱりなくなっているような気がする。濁った空気はもうどこにも見当たらなかった。
04
「今日は重大発表があります!」
いつもは来たらすぐに部屋へとあがる夜トは、今回ばかりは玄関先で胸を張って声高々に言い放った。
「雪音くんが、俺の祝になりましたー!」
「ええ!本当かい!」
雪音は若干恥ずかしそうに頬を染めている。
なんだか
まで嬉しくなって、思わず拍手を送っていた。
「すごいじゃないか、雪音!おめでとう!」
「あ、りがとうございます」
はにかんだように、へへ、と笑う雪音はどこか垢抜けていて、
は笑みを深めた。
祝。
も得たことのない、祝の器。
ヤスんだ夜トを見た時にはどうなることかと思ったが、そうか、あの雪音が。
「今日はお祝いだな!」
「ありがとうございます!」
「おーっし、飲むぞー!」
どうやら今は定住というわけではないらしいが、住処と呼べる場所を得て、二人はそこでなんとかがんばっているようだった。
だから今回は1日だけ泊まったら、またその宿へと帰るのだそうだ。
そんな二人に、祝の器になった祝いとして、
は今までにないくらいに豪勢な食事を用意した。
「お前、だいぶ若返ったな」
いつもの晩酌の最中、酒で頬を赤くした夜トが
を見ながら言った。
ぐい、と夜トはグラスをあおる。もう何杯目かも分からないが、相変わらずの酒の強さに
は苦笑する。
は中学生のような格好で、雪音とあまり年格好が変わらないようになっていた。中学生の体で酒を飲む姿は、以前にも増して違和感が凄まじい。
「そう?」
「そうだよ。しかもなんか、若返るスピード早くなってねぇか?」
「君たちが来るのがそれだけ久しぶりなんだよ」
「そうかぁ?お前気をつけろよ、ホント」
「心配してくれるんだ、夜ト?」
「まぁな」
「はは、ありがとう」
「笑い事じゃねーよ」
「うん、そうだね」
神自身が気をつけるも何もない、という事は二人とも分かっている。けれど、神とて心を持った存在だ。
若返っていく“友人”を心配にもなる。
それに
は誤魔化したが、
の若返るスピードはここに来て早さが増していた。既に若返る、というよりも幼くなる、そう言った方がいい程にはそれは進行している。
もその理由は分かっていた。
夫人が、死んだのだ。
末代当主の夫人。
末代が死んでからは一人でこの屋敷に住んで、屋敷の掃除や庭の手入れをしていた。
病を得てからは息子夫婦の住む近くの病院に入っていたらしいが、それが、ひと月程前に鬼籍へと入った。
その頃からだろう、目に見えて
が幼くなるようになったのは。
日に日に小さくなっていく自分の手を見つめ、
は思う。
時の流れに逆らえないのと一緒で、これもそういう類の“どうしようもない事なのだ”と。
今までは届いていた棚の上の物も、もう土台が無いと手が届かない。
視線は低くなり、立った夜トを見上げる形になった。
体が小さい事で、屋敷の掃除や庭の手入れも、いつもよりも随分と手間取るようになってしまった。
それでも、
にはどうすることも出来ないのだ。
「まあ、時代だからね。仕方がないよ」
「またそれかよ。お前、ホントにそのままだと、いずれ……、……」
「……そうだね」
それから先は、二人ともはっきりと言うことは避けた。
けれど、分かっている。
だって、伊達に神をやってきたわけじゃない。
けれど、これが自分の末路なのだと。
そう納得している自分も確かに居るのだ。
やはりそれは、自分が神ゆえだから。
2014/07/19