虫だと思ったそれは、人型をしていた。
声が聞こえるので耳を傾けていると、歌声が聞こえてきた。
ぴょんぴょん飛び跳ねるそれを見ていると、どこからともなく、似たような形をしたものたちが集まってきた。
そのまま見ていると、こちらに向かって酒瓶が差し出される。
小さな小さなそれは、透明な液体で満たされていた。
「どうだい、あんたも!」
これはまた気さくな妖もいたもんだと、
は呆れにも似た感心を覚えた。
花飛び跳ねる
「何してんの」
声をかけられて無視する理由もなかったので、試しに聞いてみた。
相手は手のひらサイズよりもまだ小さい、妖だった。
「見て分からんか、花見じゃ花見!」
「花見…」
確かに桜の木の根元ではあるが、今は秋、桜はまだまだ咲く気配を見せない。
もしかして、彼らはその根元に植わって見頃を迎えている、彼岸花の花見をしている、のだろうか。
「あんたたち、彼岸花、好きなんだ」
「もちろんもちろん、愉快愉快、これは貴なる花なれば、今を逃す手立てはなかろう!さあさ愉快だちきりんばやしだ、飲むぞ歌うぞ、あんたもいかがか?」
ちりんちりんと小さな箸で小さな茶碗を叩く音でリズムを取って、上半分だけの若い男の面を被った小さな妖は踊りながら即興の歌を歌った。
どうやらすでに出来上がっているらしい。
小さな妖が奏でるでこぼこな音に、それでも周りに集まった5人(匹?)くらいの妖は周りを円を囲んで踊っていた。
「まあ、たまにはいいかもね、こういうのも」
はどんちゃん騒ぎに一抹の呆れを覚えながらも、そばにカバンを置いてその上に腰掛けた。
比較的、彼岸花は好きな花の部類に入る。
真っ赤に咲いて、凛と立つ姿。細い花弁の織り成す形は、芸術的とでも呼べる姿を織り成して、群生しているその空間が、なんだかステキだ。
“貴なる花”、そう彼らが言うように、確かにその表現はふさわしいような気がした。
「あなたもどうです!御酒でもいかがです!」
先ほどの妖が小さなお猪口を差し出してくる。
それはさすがに小さすぎるだろう、そう思ったが、口には出さないでおいた。
「まだ未成年なんでね」
「ほお、未成年でございましたか!まあま、どうぞ一杯!」
未成年の意味分かってんのか。
けれど彼らが人間の領分のルールを知っているとも思えない。それを押し付けるだけ、人間の傲慢さが分かろうというものだ。
妖は、ただそこにいるだけだ。
彼らは彼らの生活を営んでいる、人間と同じように。
ちんとんしゃん
ちんとんしゃん
どこから持ち出してきたのか、本格的に宴会をし始めた妖を見ることで深みにはまり始めた思考を遮り、別の女の面をつけた妖が差し出した小さな桜餅を手にとった。
妖の作ったお菓子を食べていいものかどうか考えあぐねていたけれども、まあ毒見だと思って口に含んだら、なんだか甘酸っぱい味がした。
木苺のようだ。
桃色のお菓子を軽く租借して、もう少し彼らのとんちき騒ぎを眺めていようと思った。
2008/03/28