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念の為、綾子は病院へ行って佐久間夫妻に付いていることになった。
そちらで霊が現れないとも限らないからだ。
大家に依頼して、兵をおびき出す為に使う部屋を一部屋あつらえてもらった。そこも今は空き部屋になっている部屋で、3階のの部屋の向かい側の303号室だ。
大家に指示された場所にあった鍵で303号室の鍵を開け、メンバーは手分けして機材等の設置を行っていった。

「ごめんね、さん。折角の休日に手伝わせちゃって」
「ほんとだよね。まぁ、でも自分が住んでるトコだしね、仕方ないっていうか。ここでいいかな、谷山さん」
「あ、はい。オッケーです。えっと、あたしの事は麻衣でいいですよ。皆そう呼んでるし」
「そう?じゃあ私もでいいよ」
「じゃあ遠慮なく」

任せられた仕事をそれぞれが淡々とこなしながら、なんとはない会話が続く。
麻衣は本当に嫌味のない人間で、一緒に居るとなんとなく居心地がいいような気になってしまうから不思議だった。

「麻衣達はチーム組んでから長いの?皆だいぶ仲がいいというか、連携が上手く取れてるというか」
「そうだなぁ。あたしが事務所でバイト始めてからの付き合いだから結構長いかな。ナル達はもとより、協力者の皆も何だかんだで調査以外でもつるんでて仲がいいんだよね」
「へぇ。なんか羨ましいねぇ」
「えへへ。そういえば、気になってたんだけど、最初にナルに協力してくれって言われた時、“この業界の人には協力する事を言わないでくれ”って言ってたじゃない?あれ何でか…聞いてもいいかな」

機材の設置が終わり、麻衣ももケースだけを持ってエレベーターへと向かう。下行きのボタンを押してから、は、ああそんなこと、と苦笑した。

「うん、いいよ」

この業界は何かと色々あるから、ナルは敢えて何故かは聞いて来なかったのだろう。どうしてがSPRに協力することを口外してはいけないのか、ということを。
麻衣もそれを気にしてか少し聞きづらそうにもしている。
けれど好奇心に勝てなかったのだろのか、目が蘭蘭と輝いているのを見てつい苦笑がこぼれてしまったのだ。

「いや、の人間は勝手にフラフラ歩きまわって除霊とかしちゃいけないんだよね、ホントは」
の…人間?そういえば午前中にもそんなこと言ってたね」
「うん。うちはそういう霊能者…っていうかほぼ能力者なんだけど、そういうのを輩出する一族でね」
「へぇー、じゃあご家族みんなが霊能者?」
「全員ってわけじゃないけどね。普通の家からしたら有り得ないくらい霊能者が多いよ、うちの一族は」
「すっごーい」
「うーん、どうかな…。まあとにかくそんな感じなんで、もし協力するなら本家に許可を取らないといけないんだけど、面倒くさいじゃん?それに絶対許可おりないしね」
「え、なんで…?」
「まあ、色々とあるんよ。色々と」

ちょうど来たエレベータに乗り込みながら、は肩を竦めた。
そう、本当に色々あるのだ。その説明をしないのは、別に理由を隠したいわけでもなんでもなく、説明するとえらく長くなってしまうくらいにはややこしい内容であるからだ。
が地元を離れてこんな所にいるのもそれ故だ。
説明すれば長々と語るハメになる割に、聞いたってちっとも面白くともなんともない。興味本位で聞いてくる人間に話すには、全くもって気が進まない話なのである。

「んでまぁ、協力してた事がバレると面倒くさいから、あんまり言いふらしてもらいたくないわけですよ」
「なるほど。この業界の人間に知れ渡っちゃうと、さんの実家にもバレちゃう可能性が高いから?」
「そうそう」

空のケースを持ってベースへと戻ると、たった今、あと少しでリンが帰って来るとの連絡が来たと知らされた。

「お、じゃあいよいよ作戦が始まるわけですね」

いつもの軽い調子でが言うと、先にベースに戻っていた滝川は些か脱力したように溜息を吐いてそうだよ、と答えた。

「なんかホント、ってのんびりしてんなぁ。その余裕はどっから来るの?」
「余裕といいますか。こんだけ頼りになる皆さんがいますからね」
「あ、そう…」














お茶でも飲んでひと休憩していると、程なくしてリンが戻ってきた。
ちなみにリンのサポートをしていた安原は、霊能力が全く無くこういう除霊の時にはほとんど役立たずなため、綾子のサポートという事で今度は病院へと直行らしい。
リンがベースに帰って来ると、すぐに今回の囮作戦の概要説明が始まった。
要は、リンが用意した人形(ひとがた)を作戦に使う部屋に置き、兵士の霊が現れるのを待つというものだ。
相手方が囮だと気がついて何も起こらない事もあり得るし、囮だと気が付かなかったにしても、すぐに攻撃を仕掛けてくるとも限らない。
今日1日を掛けて更にマンション中の除霊を行って霊の数を減らしたとは言え、すぐに本丸である兵士の霊が出てくるかも分からない。
長期戦も予想される。
けれどモニター番と違って、霊が現れた際には確実に相手を仕留められるメンバーがそれだけの長い間待機している必要がある。
霊が活発化する夜の間のみ人形を使った待ちぶせを行い、昼間に休息を取るという作戦が取られることになった。
リンが準備して来た物を部屋に配置し、メンバー全員が303号室のがらんとした居間に揃っていた。

「始めよう」

ナルの一言で、その場の空気が引き締まる。
滝川は独鈷杵を、ジョンは聖水を、真砂子は数珠をそれぞれ手に持って、壁際に待機していた。

「今日出て来てくれれば楽なんですけどねぇ」

だけがのんびりと、緊張感の無い声でぼそりとつぶやいた。









2015/03/27

蘇った守護者達 15