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「では、質問をよろしいでしょうか」

が質問をし尽くして満足したようなので、仕切りなおしてナルは再度質問の口火を切った。

「ええ、どうぞ」
「あなたはこのマンションで何か異変を感じた事はありますか?」
「異変?って言いますと」
「何か妙な音を聞いたり、変なものを見たりといった事です」
「ああ、そういう異変、ね」

その何か含みを持たせた言い方に、ナルは少し目を細めた。
何か隠しているのか、そう勘ぐった矢先だった。

「じゃあ、あなた方が信頼出来ると思って話しますけど」

は簡単に前置きをして更に続ける。

「よく見ますし聞きますよ。ここには結構、たくさん居ますからね」
「何がたくさん居るんですか」
「霊ですよ。死んだ人達の霊、ですね」

その答えに、ナルはさすがに無反応だったが、麻衣は目をぱちくりとさせた。
これはまた、なんともないような顔と声で、とんでもないことをは言ってのけた。けれど当のは、まるでそれを気にかけた風もなく淡々としている。
それは、この辺にはコンビニたくさんありますよ、とまるで周知の事実を言ってのけるような軽さがあった。
なのにその内容は一般人が聞けば到底信じられないような内容で、そのギャップのせいで、聞いている側にとってはどうにも温度差を感じずには居られないのだ。

「どんな霊が居ますか」
「この辺に住んでた人達じゃないですか?昔墓地だったらしいですもんね、ここ。古臭い格好の人達が多いです」

あまりにあっけらかんと言うものだから、信じていいものかどうか麻衣は迷った。
それはまるで、以前の黒田さんのようにも見えたからだ。つまり、嘘を並べ立ててけろっとしていられるような虚言癖でもあるのではないかと思ったのだ。

「古臭いとは、どのくらい前の霊か分かりますか」
「さぁ。戦時中のような格好をした人もいるし、もっと前の感じの人もいます。皆さん着物とかですけど、どのくらい昔の人かはちょっと分かんないですね」
「ここが墓地だったというのは大家さんに聞いたんですか」
「どうだったかな。多分そうだったと思います」
「大家さんは、このマンションで怪異現象が起こっていると言っています。あなたは霊が見えるそうですが、その霊達がその現象を起こしているんでしょうか」
「そうでしょうね。まあいろんな所に潜んでたり、たまにイタズラしたりしてるみたいだってのは知ってますけど」
「そうですか。あなたはどのくらいの頻度でその霊達を見ますか」
「頻度?頻度って言っても…彼らもここに住んでるようなもんですしね。毎日見ますけど」

これは中々手強い、と麻衣はのほほんと話しをするを見ながら思った。












「って事があったんだよね」

麻衣はその夜に到着したぼーさんに言った。
佐久間が霊が出て困ると騒ぎ立てているし、昨夜一日で既に映像や計器類に反応があった事もあり、とりあえずぼーさんを呼んで除霊をしようということになったのだった。
麻衣は夕方にから聞いた話をぼーさんに一部始終話していた。
曰く、彼女には霊が見えていること。また、その霊達はここに住み着いていて、最近は確かに活発に活動しているが、佐久間が困っているというのまでは知らなかった、ということ、など。
話をしている最中のはとても落ち着いていて、麻衣には彼女が嘘を言っているようには見えなかった。けれど逆にあまりにのんびりと、あっさりと話をするものだから、返って信じていいものかどうか迷ってしまうと麻衣は思った。
確かに、「霊が見える」とそれらしく(、、、、、)話すペテン師のような人達に比べれば、その淡々とした態度はいくらかマシだとは思うのだが、しかし今日始めて知り合ったばかりの人間に、こうも抜け抜けと“霊が見えます”と言うので、どうにも信用しがたかったのである。

「なんか胡散臭せー話だな」
「あたしもなんかそう思っちゃった。だって、ホントに何でもない事のように言うんだもん」
「ふーん。ナルちゃんはどう思ったよ?」
「…今の段階では何とも言えないな。彼女の話を判断するにはまだ情報が足りない。けれど彼女が僕達に尋ねた内容は、一般人ならすぐには出てこない質問だろう。それなりに知識があるようだ、とは言えるかもしれない」
「それなりの知識、ね。これが嘘か誠か…。そういや安原少年は?」
「もうすぐ帰ってくるハズだよ」

買ってきた夕飯を食べながら、主にぼーさんと麻衣はそんなような話をぼんやりと続けていた。
それからそんなに時間も経たない内に203号室のチャイムが鳴り、安原が帰って来た。

「どうでしたか、安原さん」
「そうですね。半年前に何か起こったかというのはまだ分からないんですが…1年前なら分からなくもないんですけど」
「と言うと?」
「順を追って話しますね。ここがマンションの建つ前は墓地だったという大家さんの言葉は本当のようですね。その墓地があった寺というのも、火事で焼けてからは長い間荒れ寺だったようで、その時から既に出ると噂の心霊スポットだったようです」
「なるほど、いかにもって感じなわけだな」
「はい」

そのため誰も荒れ寺の整備を行おうとせずに、長い間放置されていたのだという。それを買い取ったのが、先代、つまり今の大家佐久間秀久の父親である。
相当の曰くがあったために破格の値段で土地を買取る事が出来たらしい。
もちろんそれだけの事があったので、墓にあった遺骨はきちんと供養してもらった上で他の寺の納骨堂に移したり、寺の跡地自体もお祓いをしたりと、丁寧に丁寧を重ねた上で作業は進んだ。
事実、その工事の最中には何も起こらなかったし、マンションが建って住民が住み始めても、特にこれと言った問題は起こらなかった。
丁寧に供養した事が効いてか、幽霊を見たというような話も全く無かったのだそうだ。
その後、代が変わって今の大家になってから、4年前に一度改築をしている。

「それで、改築をした施工業者に聞き込みしてみたんですが、改築をした後に1度、今から1年程前だそうですが、駐輪場拡張の追加工事をしているみたいなんです」
「4年前にも確か駐輪場の拡張工事はしていますね。それに追加で工事があったということですか」
「はい」
「なるほど。大家からは聞いていない話ですね」
「関係ないと思って話さなかったのかもしれませんね。その追加工事の際に、業者は大家に言われてコンクリートの柱を1本撤去して、新しく別の柱を建てたそうなんですが、撤去した柱の中から御札のようなものが出て来たらしいんです」

何の変哲もない柱で、大家もその御札については知らされていないと言っていたらしい。しかし、元が曰くのある土地だということは重々承知していたので、その御札は出て来た時のまま再び新しい柱に埋め込んでもらうことにした。
やはり異常はその頃には発生していない。

「うーん、大家さんと施工業者の話を聞く限りでは、半年前に何が起こったかまでは分からないってこと?」
「そうですね。明日は昔このマンションに住んでいた人を探して話を聞いてみようと思います」
「よろしくお願いします」

夕食を取ったあともあーだこーだと色々話をしてみたものの、結局は憶測の中の話で進展は無く、引き続きそちらについては情報を待つと共に、柱だけは明日確認してみようという話になった。
その後は、滝川による除霊が行われた。
このマンションに居る霊の強さがまだ分からないため、今夜は佐久間宅のみの除霊となった。
滝川は手応えがあったか無かったかよく分からないと後で言ってはいたが、佐久間には丁寧に頭を下げられ何度も礼を言われた。
やはり、度々起こる霊障に余程参っていたと見える。
佐久間に今までの所の進捗を簡単に説明したりしながら、二日目も比較的平穏に過ぎていった。







2014/12/18

蘇った守護者達 03