「あ、。お疲れ様」
「ミリアリアさん。お疲れ様です」

シャワーを終えて服を着た所で、シャワールームにミリアリアが入ってくる。それに軽く会釈をすると、もう堅いんだから!と苦笑が返って来た。







温かい場所









「ミリーで良いって言ってるのに」
「ええ、まあ、はい」
「慣れてからでいいけどね。は今日シャワー?」
「はい。ミリア……、えー、ミリーも?」
「あは、変なの。うん、そうよ。ゆっくり温泉入ってたかったけどこの後すぐCICのシフトなの」
「そうですか」
は温泉入らないの?」

ミリアリアが隣のロッカーの窓を開けながら不思議そうに尋ねた。
ミリアリアはたまに時間が無い時などはシャワーを使う事があるが、シャワールームで良くと出くわす事がある。どうやら温泉に入ってる様子は無いし、いつもシャワーを使っているのかと訝ったのだ。

「ええまあ、大抵はシャワーです」
「温泉気持ちいいのに。温泉は嫌い?」
「いえ、なんというか、カガリ様やラクス様、艦長などもよく温泉を使われておいでのようなので…」

は困ったように眉尻を下げた。
温泉自体は嫌いではない。もオーブに住んでいたから、温泉文化には親しみがある。
が、さすがに風呂でカガリに敬礼をする自分を想像するのも中々間抜けな図で笑えない。艦長クラスの人たちともなれば自室にシャワーがあるため、共同シャワールームで彼女たちに出くわすことはないのだ。

「あー、気まずいんだ」
「…さすがに」

ほとほと困ったというような顔をするに、ミリアリアは声を上げて笑った。
確かに、のアークエンジェルクルーに対する態度は以前よりかは和らいで来ているが、それでもカガリや艦長に対しての態度は相変わらずだった。
対してミリアリアは、艦長やブリッジ勤務のクルーはもとより、パイロットであるキラや、かのクライン派のラクス、果ては整備士のマードックに至るまで、非常にフレンドリーに接している。
戦闘艦という密閉した空間で特有の“家族のような”親しみがそこにはあった。

「ミリーはアークエンジェルはもう長いのですか?」
「ん?うーん、そうねぇ、キラと同じくらいかな」
「そう、ですか」

アークエンジェルクルーは以前は軍人だったとは思えない程にクルー同士も気安いが、殊更、ミリアリアとキラはよく食堂や談話室で談笑している姿を多く見掛ける。それは同じ船のクルーだからというよりも、どこか友に向ける親しみに似ていた。

「あの、失礼ですが…では、ミリーはもとは軍人では無かったのでは…?」

キラはかつては軍人ではなかった。ヘリオポリス崩壊に際して、仲間の学生らと共にやむなくアークエンジェルに乗艦したのだ。
事細かには聞いた事は無かったが、義父がこぼしたのをは耳にした事があった。
だから思ったのだ、もしかしたらミリアリアは、キラと同じくヘリオポリスで乗艦した学生の一人だったのでは、と。

「そうよ。私はもとはヘリオポリスの学生だったの。キラと同じゼミのね。それで、まあ、なんかこんな事になっちゃってるわけだけど」
「それは……、大変でしたね」
「そりゃあね、何度死ぬと思ったか知れないわよ。でも、キラだけ私達のために戦ってくれて、それで守られてるだけなんて、私達は嫌だったの。だから、出来る事をしようと思った。それだけだったんだけどね」
「強いですね、皆さん」
「…そんなことない。そんなことないわよ」
「…、ミリアリアさん…?」

一瞬物思いにふけるようにミリアリアは遠い目をした。
何かつらい過去を思い出したのかもしれない。
がすみません、と再度謝ろうとした時、ミリアリアはころっと表情を楽しそうな笑顔に変え、そうだ、と大きく手を合わせた。

「今度一緒に温泉入りに行こうか?」
「え?」
「きーもち良いわよー。私と一緒なら別にいいでしょ?」

気を使ってくれているのか、その気持ちに感謝するようには笑った。
ここの人達は、こんなにも暖かく、優しい。

「はい、それでは、是非」
「決まりね。じゃあ、おやすみなさい」
「はい」

シャワールームに入っていくミリアリアを見送って、は目を伏せた。
自分だけこんなに恵まれていいのだろうか。
今まで死んでいった仲間の、義父の顔が浮かんだ。
苦い気持ちが交じる中で、それでもは確かに幸せを感じていた。












2020/11/07