右肩と太股には突き立てられたサバイバルナイフ。ナイフは貫通して見事に私を地面に縫い止める。
生身の体からは遠慮なく血が溢れ出す。愛用の機器が自分の血で濡れていた。
天井に張り巡らせた映像カーテンは、皮肉にもどこまでも広がる青空を映し出す。女性型サイボーグに嵌め込まれた綺麗なガラス玉のような目は、まばたきすらしない。
隙のない身のこなし。
私を取り囲んだ数人の男。
向けられる小銃。
自分の胸に乗るスナイパーの小さく赤いレーザーポイント。
壊された機器。
止まらない血。


―――私は死ぬんだと思った。












。貴様に選択肢をやろう」



女は言った。












die Alternative

二者択一


















国賊による大規模な国家反逆を装った個人の仇討ちは、発覚から公安との長い電脳戦を繰り広げてきた。最後の最後、迎えたクライマックスは急展開を見せた。
自分の最高の力でもって組み上げた何重もの防壁迷路をかいくぐってきた奴は実は囮で、気が付いたときには既に物理的な自分の腕が一本犠牲になる直前だった。
いくらクラッカーとしての腕がよくても、所詮は生身の一般人。自分でも善戦した方だとは思うが集団組織の前では無力なちっぽけな人間だった。
武装した特殊部隊の前では為す術もない。

「へえ、嬉しいな。まだ私に選べる権利が残ってるなんて」

常日頃から抜けない軽口をたたく。
警察が提示する選択肢なんてものに、私に生き残る道があるはずがない。こうして今生きながらえさせられているのは、必要な情報を引き出すためだけにすぎない。
それが済めば、私はこの内の誰かの、一本の指の動きだけでこの世界と別れを告げることになる。
どんどん手足が痺れるように麻痺して、そこから急激に感覚が無くなっていく。これが"死"というものなんだろうとどこか冷静に頭の中で声がする。


「今ここで私に殺されるか、私の部下になるか」


女の言った言葉に、思考回路が素早い動きで脳に電気信号を走らせる。いくつもの結果が弾きだされても、否、はじき出されたからこそ、私は提示された選択肢の意味が一瞬、理解出来なかった。
その結果は私の中に存在していなかったから。

数瞬後、やっと言われたことを理解した頭は、しかし筋肉の強張った顔にぎこちない嘲笑を浮かべる。
結局は選択肢なんて残っていないのだ。


「そういうの、選択って言わないと思うけど」
「どうなの」


言葉遊びにはどうやら付き合ってくれる様子はないようだ。否定の言葉を発すればこの女は躊躇うことなく引き金を引く。動かない目がそう語る。
頭の中で答えは既に出ている。
けれど素直に頭を振れずに目の動く範囲に視線をめぐらした。女同様に武器を構えて、スキなくこちらを睨んでいる男たちの様子に、恐怖を覚える。それでも微かにその顔に驚きが混じっているような気がするのは気のせいだろうか。


「――死にたくない……かな」


意識が急激にしぼむ。
半分瞼がおりた眼球には、女が手を上げ銃を下ろさせる姿が映る。

「(起きた頃には、体の半分は義体かもしれないな……)」

どうでもいいことが頭をよぎり、直後、意識が途絶えた。













2010/01/03

一度やってみたかった……!