「あれ、もしかして…!?」

ふいに後ろから声をかけられて、俺はびくびくと後ろを振り向いた。知り合いに心当たりも無いようなこんな所で声を掛けられるなんて思っても見なかった。
けれど振り向いた先に居た女の子に、俺の頭は瞬時に懐かしさと共に昔住んでいた家の近くにあったボロアパートを思い出していた。
そう、あれはまだ俺が小さい頃、父親の転勤で全国を飛び回る前の事。
この地元にまだ住んでいた頃、人見知りの激しい俺には珍しく、よく遊んでいた女の子が居た。

「え……、………麻衣?」
「わぁ、やっぱりだ!久しぶりー!」

元気にそう言って笑った顔は昔の面影をふんだんに残していて、けれど伸びた身長や少し大人びた顔立ちに、少し緊張しながらも俺は表情を緩めた。

「久しぶり、だね」
「ホントだね!こっちに帰って来てたの?」
「うん。えっと…今年の春に、またこっちに引っ越して来たんだ…」
「そうなんだ!」

積もる話もあるからと、ちょうど時間のあった麻衣と渋谷でお茶をすることにした。
その時はまだ、後からこんな事になるなんて思いもしなかったけれど。









未知の力と、未知の世界
<前>









俺には昔から不思議なチカラ(、、、)があった。
それは例えば、手を触れずに物を動かす事が出来たり、睨むだけで物に火が着いたり、普通の人であれば出来ないような不思議な事が出来る力だった。
小さい頃は当然のように皆が出来るものだと思っていたから、家でも積み木を宙に浮かせたり、マッチをこすらずに火をつけたりしていた。
けれど4歳で幼稚園に入り、それが誰にでも出来るものでは無いと知ってからは、極力この力を使わないように努めて来た。
小さい頃から気が弱かった俺は友達を作るのが下手くそで、幼稚園の頃はまだ突発的に使ってしまう力のせいで周りからも嫌厭されがちだった。
そんな時に友達になってくれたのが、近くのアパートに住んでいた麻衣だった。
麻衣はとても明るい良い子で、引っ込み思案の俺をよくいろんな所に連れ回したり、一緒に他のグループの子と遊べるようにしてくれたりした。

だから俺は、何度か麻衣にこの力を見せた事がある。

殊更俺は何かを“燃やす”事が得意だった。だから、側に落ちていた小さな枝と葉っぱを一緒に燃やすのを麻衣に見せてあげた。ちょっとした感謝の気持ちのつもりだった。ちょっと変わった事を見せてあげて、喜ばせようとしたのだ。
麻衣はそれを見てとても尊敬するような眼差しで「はすごいね!」と笑ってくれた。
それが俺にとってはとても嬉しかったのを今でも覚えている。
結局その後親父の都合で俺が家族ごと引っ越してしまってそれっきりだったが、引っ越した先で麻衣にした事と同じことを“トモダチ”にして見せると、「気味が悪い」と周りの人間は俺から離れていった。
その段になって、俺はようやく麻衣がとても貴重な存在だったのだと認識したのだった。

久しぶりに会った麻衣は、以前と変わらず明るい笑顔で笑っていた。
話に伝え聞いた事が本当だとするなら、麻衣にはもう両親はいない。それだと言うのに全く暗い表情も持たずに明るく笑う麻衣はやっぱりすごいな、と俺は麻衣とカフェでコーヒーを飲みながら思った。
カフェで今までの話しをしたり、最近どうしているか近況を話したりしていた時、俺は妙な話しを聞いた。

「心霊調査…?」
「うん、そう。心霊現象が起きている所なんかに行ってね、調査するんだ」
「へぇ…なんか、スゴイ所でバイトしてるね」
「うん。たくさん機材運んだりして意外にも重労働が多いし、人使いは荒いし、結構大変でさ」
「幽霊とか…退治するの?」
「退治っていうか…まぁ、心霊現象の犯人が霊だったりしたら除霊したりもあるかな」
「なんだか…不思議な世界だね」
「うん、特殊だよね」

普通の人なら心霊事務所などと聞けば、まず真っ先に怪しいと思うだろう。
けれど麻衣はそれを憚らずに俺に話してくれた。それはきっと、俺が頭からそれを否定しないと思っているからじゃないだろうか。
そしてその考えはきっと正しい。

「そういえばは、まだあれ出来るの?」
「あれ?」
「うん、昔見せてくれたでしょ。睨んだだけで物を燃やしたりとか」
「……よく覚えてたね」

やはり、麻衣は覚えていた。
麻衣は特に興味津々といった風でも、逆に怖がる素振りを見せるでもなく、ただ確認のように聞いてきた。
やっぱりそういう事(、、、、、)に慣れているんだろうなと思わせる態度だ。

「そりゃあね、印象的だったから」
「そっか。……うん、出来るよ」
「凄いねぇ」
「ううん、全然…」

俺は手袋をしている右手の指先を、反対側の何もしていない手で軽く包んだ。右手の指先には、火傷がある。
今はまだ軽い火傷で済んでいるけれど、これからどうなるか分からない。
俺は舌で唇を軽く湿らせてから、ドキドキしながら口を開いた。

もしかしたら。

もしかしたら、これは僥倖かもしれない。

「ねぇ、麻衣…」
「うん?」
「その事務所は……その……、超能力の相談とか……乗ってくれる…かな?」

麻衣の目がきょとん、と丸められた。
俺は麻衣の反応を見て、やはり自分は見当違いな事を言ったのだろうと思った。焦ってすぐにでも前言撤回しようかと再度口を開きかけたけれど、

「もちろん」

あまりにも当然のように麻衣が笑って言うので、俺は開きかけていた口を閉じて、幾分かほっとして肩の力を抜いた。
もしかしたら、胸に巣食うこの不安もなんとかなるかもしれない、と期待しながら。








2014/11/21

ゴーストハント大好きです…。